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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(オ)581号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士鍛治利一の上告理由第一点ないし第四点について。

原判決は、証拠に基き、判示建物はその所有名義を登記面だけ訴外会社名義としただけで、当事者間に所有権移転の行為があつたものでないばかりでなく、本件土地の賃借権についてはなんら譲渡の事実はなかつた旨認定したのである。されば、論旨第一点の判示建物の譲渡行為の無効は民法九四条二項により上告人に対抗し得ない旨の主張は、判旨に副わないものであるばかりでなく、かつ原審において主張、判断のなかつた事項に対するものであるから、適法な上告理由とは認め難い。また、同第二点、第三点は、要するに事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであり、また、同第四点は単なる法令違反の主張であつて(なお所論原判決の判断は当裁判所においても正当と認める)、すべて最高裁判所における民事上告特例法一号ないし三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

同第五点について。

被上告人の本訴請求は、被上告人の当審における釈明によれば、上告人の争う本件土地の賃借権そのものの存在を確認しその土地の引渡を求めるに尽きるものであつて、右賃貸借によつて被上告人の負担する地代債務の存否、ないしその額の確定を求めるものでないことは明白である。されば、原判決が本件賃借権の存在を肯認した上、さらに、被上告人において右賃借権を特定するため主張した一ヶ月の地代八一〇円七七銭を特に七六円二〇銭であると認めこれを主文に掲記したからとて、係争法律関係の存否に関してなされた判示ではないといわなければならない。従つて、本論旨は、結局原判決の主文に影響を及ぼさない法令違背の主張に帰し、上告適法の理由と認め難い。

よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官真野毅を除く裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

上告理由第五点に関する裁判官真野毅の意見は次のとおりである。

原審において被上告人は「賃料一箇月金八百十円七十七銭毎月二十八日払、期限昭和三十六年三月三日の賃貸借契約の存在することを確認する」ことを求めたのである。賃貸借存在の確認訴訟においては、ただ抽象的な賃貸借存在の確認を求めるというのでは無意味であるから、具体的な内容を明らかにして賃貸借関係を特定せしむべきである。それ故被上告人が賃料一箇月八百十円七十七銭という内容を自ら主張しているのに対し、何等請求の趣旨等を変更せしめることなく原判決が「賃料一ヵ月金七十六円二十銭」の賃借権の存在を確認したことは、所論のとおり当事者の申し立てざる事項につき判決をした民訴一八六条違反の違法があり、本件は破棄差戻さるべきものであると考える。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 入江俊郎 裁判官岩松三郎は退官につき署名押印することができない。 裁判長裁判官 斎藤悠輔)

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